Monday, August 10, 2009

古代ギリシャのコンピューター



私が会社に入った1965年、オフィスに一台の機械式計算機があった。 電動式だが歯車の組み合わせで加減乗除が出来る機械だった。
新入社員にまず与えられた仕事は、顧客への
見積書の計算であり、当時ドル建てだったコンピュータやカード式統計機、オプションパーツなどの価格を円転して計算するのだ。
価格表のドル価格を1ドル360円で変換し、見積書を作る作業である。手作業ではとても面倒で、機械式計算機が引っ張りだこだった。

その後すぐに4ビット電子式卓上計算機が出現したが、とても高価なものだったことを覚えている。
コンピュータ会社に入って、最初に触れた機械がこの歯車の組み合わせでガシャガシャとうるさい音を立てる計算機だったことも忘れられない印象だった。
元はと言えば、この機械式(歯車式)計算機が、今
のコンピュータの始まりである。

歯車の歴史は古く,紀元前からエジプト,ローマ,ギリシアなどで,水揚げ装置に木製の車の外周に歯を付けたものが使われていた。
また,中国では青銅製の歯車も作られてた。
“歯車による加減算”の仕組みは、ルネッサンス期に「ハンドルを手で回し、13個の歯車によって自動的に桁上がりする機械」が発明されている。考案者はレオナルド・ダ・ビンチ。

その後、現物が存在する計算機械では、フランスの哲学者パスカルの 考案したものが最古となる。
パスカルが生まれたのは1623年。 税務官吏の息子 だったパスカルは、1642年、19歳の時に計算機を考案した。親父の仕事を見て、厳密で正確な計算装置が必要だと痛感したのだろう。 
パスカルの計算機 には、桁の数だけ歯車が付いており、1つの歯車で9まで数えると隣の歯車が桁上げされるという構造だった。
原理的には、算盤に桁上げ機構を加えたような形 だ。 
39歳で世を去るまでの20年間に、パスカルはおよそ50種類の計算機械を作ったという。歯車の素材は木や象牙であり、精密な動作ができなかったために、試作を繰り返したらしい。

ところが、古代ギリシャで精密な歯車の組み合わせを使って、天体の運行を計算し指し示すことができる天体コンピュータが作られ、利用されていたことが最近になって解明され、その復元模型まで作成されたのだ。 名づけて「アンティキテラの機械、古代ギリシャのコンピュータ」。
1900年の秋、ギリシャクレタ島の近く、アンティキテラ島沖で、海綿取りのダイバー達が古代ギリシャの沈没船を発見、大理石やブロンズ製の貴重なギリシャ彫刻を多数引き上げた。
その中に小さな木箱があったが、博物館スタッフはあふれかえる美術品を前に、宝物の復元、修復などに忙殺されており、誰も気にしなかった。
だが、数ヵ月後、木が乾燥して縮んだ時その中からさび付いたいくつもの歯車と、かすれた古代ギリシャ文字が発見されたのだ。

古代の歯車の発見は当初OOPARTS(「場違いな工芸品」という
意味。それらが発見された場所や時代とはまったくそぐわないと考えられる物品を指し、英語の Out Of Place Artifacts の頭文字をとったものである。日本語では「時代錯誤遺物」と意訳されることもある。)と考えられていた。
何せ、歯車は既知のものより1000年以上さかのぼるのだ。それから1世紀もの間、多くの科学者がその機械の謎解明に当たってきたが、ようやく近年のデジタル映像技術、最先端CT撮影、CG、非破壊検査技術などにより、ほぼ全面的にその謎が解けた。
2000文字を超える肉眼ではもう見えなくなっている古代ギリシャ文字を読み取り、錆付いて何層にも重なった歯車の一個一個を情報として取り出した結果、この機械は、古代地中海文明の天文学の結晶であり、天体の運行を計算し表示することの出来る、天体コンピュータとでも言うべきものであることが判明。
太陽、月の動きを示し、日食、月食のスケジュールが地中海のどこで起こるかを示し、その食のサイズまで表すことができる。 さらに月の地球からの最遠点、最近点をしめし、惑星の動きと位置までを示す。

例として、食を示すとはどういうことか、日食には2つの条件が必要、その1は月が満月か新月であること。 2つめの条件は、太陽、月、地球が一線に並ぶために月の通り道が太陽の周りを回る地球の軌道と交差することだ。地球から見た月の通り道(白道)は太陽の通り道(黄道)に対して約5度傾いているため、食は白道が黄道と交差する新月か、満月のときにしか起こらない。
すなわち、食の周期は朔望月(29.53日)と交点月(27.21日)の周期の最小公倍数の月数で一巡することになる。 このコンピュータは食だけでこれだけの計算をしている。
ネイチャー誌
に掲載された論文によると3次元X線カメラで分析した結果、この機械の構造を上回る技術で作られた機械は歴史上、その後1000年以上に渡って発見することはできないとしており、古代ギリシャのヘレニズム時代からギリシャ・ローマ時代にかけての技術は、その後世には引き継がれず、その後、1000年以上経てから再び作られるようになった歯車を使った機械は、古代ギリシャ文明が発明した技術を受け継いだものではなく、まったく新たに発明し直されたものに違いないと論じている。

SF作家のアーサークラークはこの機械を見て、「この知識がローマ帝国以降に継承されていたなら、産業革命は千年以上早まり、今頃は人類は近くの星に到達していたはずだ」と語っている。

詳しくはジョー・マーチャント著 「アンティキテラ 古代ギリシャのコンピュータ」を。





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