Monday, January 25, 2010

私立探偵スペンサーが亡くなった





私立探偵スペンサーの作家、ロバート・パーカーが77歳で亡くなった。
これで、スペンサーシリーズが読めなくなるのかと思うとさびしい限り。 数年前にエド・マクベインが亡くなって、87分署シリーズが終わりを告げ、30年に亘る87分署の刑事達との別れがあったばかりで、これから何を読めばよいのか、途方に暮れる。

レイモンド・チャンドラーが産んだ、私立探偵フィリップ・マーロウ シリーズはアメリカのテレビ番組でヒットし、日本でも放送されたので、知っている人は多いのではないか。元祖ハードボイルド小説。
特に次のせりふは余りにも有名だ、私はこの部分だけで参ってしまった。

作中のヒロインから、「あなたのような強い(Hard)人が、どうしてそんなに優しくなれるの」と聞かれ 
マーロウは、「タフでなければ生きてゆけない、優しくなければ生きている値打ちがない」と答える。
(If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.)


ロバート・パーカーは、このチャンドラーから大きな影響を受け、ボストン大学でチャンドラー研究により博士号を得ている。
チャンドラーの強い影響を受けてはいるが、時にはチャンドラーの真似をしてそれを超越し、パロディー化している、有名なパーカーのSmall Viceの一部を紹介する。

彼女は言った「コーヒーでも召し上がる、それとも もうちょっと強いのがいい ?」 
「コーヒーでいいよ」と私。
彼女は、コートの最後のボタンを外し肩をすくめて、コートを開いた、彼女はブーツの他、何も身に着けていなかった。
「やっぱり、もうちょっと強いのがいいかな」。と私は言った。 
('Can I get you some coffee ? she said. 'Or something stronger ?'  'Coffee would be fine.' I said.
She unbuttoned the last button and shrugged out of her coat. Except for the high boots, she had

nothing on under it.  'Or maybe something stronger.' I said.)

チャンドラーは1959年に亡くなっている、その時遺稿として、未完のマーロウ本の最初の4章だけを残した。 パーカーはそれに37章を加えて、Poodle Springs(1989)を完成させている。
勿論、チャンドラーとパーカーの共著として。
エド・マクベインはこの本を読んで、パーカーはチャンドラー以上にチャンドラーらしいと激賞している。 チャンドラーはハードボイルドの元祖であるが、パーカーは、ソフトボイルドと呼ばれることが多い、それは、女性や子供への眼差しの優しさが際立つからだろう。
スペンサー・シリーズ中の「初秋」(Early Autumn)を読んでもらうと良くわかる。 


スペンサーはひ弱で無気力で何事にも興味を示さない15歳の少年ポールと出会う、このポールを一人前の男にすべく、スペンサーが一肌脱ぐのが、この作品の魅力だ。
厳密な意味でこれが純粋な推理小説とは言えないかも知れないが、きっとスペンサーが好きになるだろう、私もそうだった。
スペンサーはプロのボクサーであったし、警官にもなったことがある。朝鮮戦争で戦ったタフガイだが、とてもセンシティブで、グルメで、女性の役割を認めているフェミニストでもある。
彼は結婚はしていないが、聡明で美人の精神科医、スーザン・シルバーマンと言う恋人(と言うか同居していない妻)がいて、彼女がハーバードで精神科医の学位をとる前からの付き合いだ。
又、仕事上の仲間でありサポーターで、プロのボクサー時代からのライバルである黒人のホークがいる。これがスペンサー以上にタフガイであって魅力的なキャラクターで、正体不明の殺し屋でもある。 この二人がスペンサーに絡んで毎回楽しいストーリーが展開する。

スペンサー・シリーズは400万部以上売れて、特に日本での人気が高い。 元大統領のビル・クリントンも熱狂的なファンで知られる。
近年では、スペンサーシリーズの他に、女探偵「サニー・ランドル」シリーズ、や小さな田舎町の警察署長「ジェス・ストーン」シリーズなども書いており、いずれも面白い。

スペンサー・シリーズは37冊出版されたが、ついに最後までスペンサーのファーストネームは謎のままで終わった。

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